Mさんの姿を凝視していた私に、嬉しそうに将棋の駒を触りながら話しかける彼。
驚きながらもどこか冷静でした。
般若のお面をかぶっていても、なぜか笑っているのが分かる。どうしてだろう。そんなことを考えながらの数秒を今も鮮明に覚えています。
親しげに、絶対に自分の気持ちを悟られないように。Mさんはそう自分に言い聞かせていたのか、仲良しの友人たちに話しかけるような口調で「遊んでるの?」と私の方を見て言ってきました。
その声で初めてMさんが来ていたことに気づいた彼。Mさんの方を向き一言「おぉ」とだけでした。私も「うん、そう」と笑顔で返しました。
その後、また私たちは将棋盤に注目し、Mさんの存在を忘れようとしたようです。
やっぱりMさんだったか。顔が般若のお面で隠されているけど、わかるもんだな。あまり違和感ないな。そんなことを考えていると、般若のお面も2度目になると慣れている自分に少し可笑しくなってきました。
Mさんは言葉少な目に私たちと一緒にいました。Mさんが来るまでの彼は嬉々として二人の時間を楽しんでいたのに、どんどん気落ちしていくのがわかります。
私も嫌な気分です。Mさんの般若のお面は取れることはなく、ずっと顔にはりついたままですから。